この記事ではこちらのセッションのレポートをする。

本セッションは、Ringly CEO の Christina Mercando 氏、サイバー イリュージョニストの Marco Tempest 氏、Telepathy CEO の井口 尊仁氏らによって主にウェアラブル デバイスを用いた次世代の新しいコミュニケーションの形について対談が行われた。このセッションでの、将来というものの切り口はとても興味深い。すなわち future = present + magic というものである。現時点で我々が見ているものに、マジックというイリュージョンを加えて、少々違った意味を持たせて見えてくるもの、という解釈である。

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この解釈はとても興味深い。なぜなら、我々が実際に見ているものだけではコンテキストを一意に決めず、そこにデジタル技術を用いた付加的な情報によってコミュニケーションを操作するということになるからだ。この付加的な情報というのは、いわば料理のけるスパイスのようなものである。我々が見えている情報にその解釈のコンテキストを与えるものだ。

この考え方は、storytelling (物語り) に適用することができる。じっさいセッション冒頭、Marco Tempest 氏はトランプ カードを使ったライブのパフォーマンスを行い、観衆を圧倒した。

Marco Tempest Live Performance

パフォーマンスで使われている手品はいたって古典的なものである。隠してあるカードを出したり、シャッフルの仕方をコントロールしたりするものであろう。しかしながら、彼の話とこのマジック (イリュージョン) との組み合わせによって、ひとつの完結した物語となり、説得力のあるプレゼンテーションとなっていたわけである。他にも、Marco Tempest といえば以下の iPod を使ったデジタル イリュージョンのスピーチが有名だろう。

彼のこのようなパフォーマンスは、目で見えている物を欺くような情報を与えつつ、ひとつのストーリを作り上げるというテクニックだ。デジタル デバイスにも、従来のような目で見えている情報だけではなくて、それに付加的な要素を付け加えることで、新しい次元のコミュニケーションが提示できるのではないか、ということを示唆していた。

この発想はちょうど Telepathy (メガネ型情報端末) にも通じるところがある。同社 CEO の井口氏によれば、会社を米国に構えたのは、デジタル デバイスをより直感的なものにすることで、人々のコミュニケーションにまつわる体験を変えられないだろうか、ということに主眼を置きたかったということだ。最終的にはデバイスがよりパーソナライズされて、人間の脳の延長としてコミュニケーションへのスパイスを与えるツールになってほしい、という願いがあるようだ。

この現状において、Goole Glass のような既存製品が提供する体験はいまだ自然とは言いがたい。特に、いくら端末を操作するためとはいえ、人前で「OK, Glass」というのは、恥ずかしさから躊躇するかもしれない。社会性にマッチした形でのデバイスとのインタラクションができるようになるべきであるとのことだ。彼はそのことを念頭におきつつ、米国で今年中にもローンチさせたいとのことだ。そして「来年は直接 SXSW の会場に来なくても Telepathy で参加できるようになるかもしれない」との一言で、場を沸かせていた。

また今後のウェアラブル端末のテクノロジーに関しての議論で Christina Mercando 氏は Ringly のような小型ウェアラブル デバイスは技術がどんどん蓄積されていくことから、大事なのはいかにアプリケーションのプラットフォームを築いていけるかという事であると述べた。

Christina Mercando

ところで、日本の読者の中には指にはめる小型ウェアラブルでバイスである Ringly が日本発のスタートアップである Ringと類似していると感じる方も少なくないかもしれない。筆者が受けた印象としては、Ringly と Ring は、前者は情報化社会における装飾となるファッション的要素を主眼におくか、技術面で生み出す新しい体験を主眼におくかとの点で異なるという印象を受けた。

セッション終了後、Christina Mercando 氏にインタビューを行った所、「Ringly は新しいウェアラブル端末である以前にオシャレなアイテムの一つである」と述べていた。実際に製品を手に取らせてもらったが、デザインは若い女性が好みそうな宝石が用いられており、さらに Ring から光が出たり、用事をアラームで通知してくれたりと、日頃のオシャレにテクノロジーが加わった印象を筆者は受けた。ちなみに電池寿命は現状では 2 時間程度であり、充電は専用の指輪ケースのようなものを用いるらしい。

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