March 9 のキーノートは遺伝情報のビックデータを扱う会社 23andMe CEO の Anne Wojcicki 氏の講演だ。

23andMe は今世界中から注目されている DNA 解析ベンチャーであり、各個人が持つ 23 組の染色体の遺伝子のの情報を集め、解析している。また遺伝子データをオープンにする事で、誰でも自分の遺伝子情報を分析する事ができ、病気の予防をする事ができる。この様な高度な遺伝子情報を 23andMe はわずか $99 という低い価格で提供する革命的なサービスを生み出した。ユーザー数は既に 65 万人もいる。

セッションの冒頭で Wojcicki 氏は高校時代に感じたヘルスケアの必要性を述べた。アメリカ全土で急速に肥満率が増加している一方、肥満や多くの病気の 90% は予防によって防ぐ事ができると報告されている。Wojcicki 氏はこのような問題に対して「人は必死になってお金を稼いでいるが、一方でヘルスケアは疎かになっており、病気になりがちである。これはおかしな事ではないか?」と疑問をもち 23andMe を設立したと語っている。

そんな Wojcicki 氏は、事業の信念が「予防は最大の治療である」であるとセッション中で述べている。各個人の遺伝子情報を集める事は以下の3点で人々のヘルスケアに貢献する事ができると Wojcicki 氏は述べている。

1. 遺伝子情報は予防治療の基準である

自分の遺伝子情報を正確に把握しておく事で日常生活から予防する事が可能となる。実際に世界的権威のある科学誌 Nature で遺伝子情報を知った 40% の人が自分を変えようと何かしらの努力をするという事が報告されている。この事からも遺伝子情報を認識しておく事は予防治療のための大きな要素である事がわかる。

2. 遺伝子情報を知ることで自分のルーツを知り、対策を立てる事がに容易になる

遺伝子情報から自分の祖先を知り、そこから考えられる遺伝からリスクを予想する事ができる。Wojcicki氏は「私の友人でも 23andMe により自分のルーツが明らかになった人がいるの。その人は生粋のアメリカ人だと思っていたけど、実際にはルーツはアフリカという非常に遠い土地にあった事がわかったの」と言って会場の笑いを誘った。

3. 遺伝子のビックデータを集める事で、研究を促進し、新しい薬品の開発にも役立つだろう

実際に 23andMe では研究開発も行っており、現在5つの薬品開発中である。この薬品は 23andMe のデータを解析する事により開発されてきたものである。遺伝子データは現在の治療だけでなく、私たちの未来のためにも非常に重要なものである。

また、セッション中では実際に 23andMe のユーザーの声をビデオで流してくれた。ある顧客の1人の感謝状が筆者には印象的であった。ある女性は 7 歳の子供がいたが、その子供は毎日アイスやクッキーなど甘いものばかりを食べていた。女性は糖尿病になるのではないかととても心配していたが、23andMe のおかげで女性の子供が実は他人と比べ特別糖分が必要な体質である事がわかり、とても安心と述べていた。このように日常では不可解なことも遺伝子情報を正確に把握する事で解決する問題はたくさんあると Wojcicki 氏は述べた。

遺伝子情報はとても重要であるが、いままでこの情報が消費者に届くことは無かった。しかし 23andMe では遺伝子情報をたった$99で提供している。この安い値段設定により、今までは手の届かない高度の治療である遺伝子情報により容易にアクセスする事ができるようになった。また Wojcicki 氏はヘルスケアのマーケットの大きさも着目すべきポイントであると述べている。実際にヘルスケアのマーケットは$2.7兆であり、国家としても年間$700万を投資している。また予防治療を促進する事で医療全体での経費削減にも繋がると述べていた。

各人が皆自分の遺伝子情報を把握する時代もそう遠い未来ではないだろう。

最後にWojcicki氏は遺伝子情報が浸透した将来像を述べた。将来では例えば医師が末期癌の宣告するという辛い事はもう無くなるだろう。そして人間はますます健康になり、逆立ちをする様なクレイジーなおばあちゃんが現れる世界も遠くないだろうと予想していた。

人類の治療にとってパラダイムシフトが起ころうとしている事が肌で感じられるセッションであった。

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